【北越奇談】
橘崑崙著/葛飾北斎画/柳亭種彦校合
筆者:橘崑崙曰く『越後は水国なり』、地理案内、龍蛇伝承、越後の七不思議、怪談、人物(良寛など)、伝説などを伝える。


| 『北越奇談』とは(内容・性格) 刊年は文化9年(1812)、全6巻の随筆・見聞記。中心は北越(越後)地方の怪異譚・奇談、奇岩・植物・風俗などの博物誌的記録です。特に巻4・巻5が「怪談」と題され、妖怪譚がまとまっています。 著者:橘崑崙は怪異を全面的に信じ込むのではなく懐疑や娯楽性を交えて扱い、ときに竜などを架空のものと割り切る姿勢も示します。約200年前の地域像・人々の考え方も読み取れると評されています。 |
| 橘崑崙(たちばな・こんろん)の生涯 本名は橘茂世(しげよ/もせい)とされ、越後国(現・新潟県)ゆかりの文人。生年はおよそ1761年頃と推定され、没年は未詳です。早稲田大学古典籍データベースは著者名を「橘茂世」とし、米ペンシルベニア大学の目録も「Tachibana, Konron, approximately 1761–」と記します。居住地は越後の三条や寺泊との伝承があり、少なくとも『北越奇談』を執筆していた時期は三条に暮らしていたことが地元資料からうかがえます(信濃川流域を舞台にした記事が多い)。版元が起用した柳亭種彦(校合・序文)や葛飾北斎(挿絵)と直接に接点があり、また越後の僧『良寛』との地縁的近さ・同時代性が指摘されています(江戸で良寛を初めて紹介した書籍で、五合庵に戻ったころの記録は、良寛初めての記載であり、崑崙の地域情報の収集、記録がいかに秀逸だったかを物語る)。 |

巻之一 龍陀の奇
竜(竜巻)と気象・自然観
越後で観測された竜巻の体験記を中心に、竜=自然現象をどう理解し語り継いだかを記録。気象学的にも注目される章立て。

巻之二 七奇の辯
越後七不思議・無縫塔・火井ほか「奇物」考証
「焼鮒」「珠数掛桜」「八房の梅」など越後七不思議系の話題や「無縫塔」「火井」等の奇物・奇景を事例集+考証として配列。

巻之三 玉石(博物学)
石物志・古器物(葬制・古鏡など)
石への蘊蓄、巻町菖蒲塚古墳出土鏡の図示など考古・器物志的な話題が核。**見聞+素描(図)**で地方の物証を示す編集が見られます。

巻之四 怪談
怪談(天狗・幽霊船・山男・大蝦蟇/生霊ほか)
蝦夷から新潟湊に向かっていた北前船が嵐にあい幽霊船に・・・

巻之五 怪談
二巻連続の怪談集成。ただし恐怖譚の快楽だけでなく、懐疑・諧謔・処世訓を織り込むのが崑崙流。

巻之六
越後ゆかりの人物譚・徳行譚を通じ、地域アイデンティティの肖像を描く章。良寛記事の収録で知られる。

